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それはさておき、相手も少し落着きを取り戻したようだし、まずは現状をなんとかしないと。 女子の鞄に黒っぽい小物がぶら下がっていて、それをつなぐ紐と袖のボタンが絡まっているのは確認済みだ。 引っ張ったくらいではとれそうにない絡み方に、また「不思議」という単語が頭をよぎる。 何がどうなったら、これだけ絡むのだろう。 しかも鞄から続く紐は組紐で、簡単に切れなさそうだというのも見てとれた。 組紐につながれた黒い物体に何気なく目を向けて、意外に思った。 ……漆板? 高校生女子が鞄に下げるには渋い印象のそれは、黒漆を塗った薄い板に金蒔絵を施したもののように見える。 日頃稽古で扱う棗(なつめ)と同じような落ち着いた漆の色合いに、目が吸い寄せられた。 外光の反射の加減で、何が描かれているのかよくわからないのがちょっと残念な気がした。 とはいえ、まずはボタンとこれを離すのが先決だ。 本来なら相手の意向も聞くべきだけど、時間もないし、勝手にこちらで決断する。 「切るしかないか」 「へ?」 さっき深呼吸を促した時と同じような呆けた顔。 ……。 それを見て、また自分の頬がかすかに緩んだ気がした。 またか……なんだ、これ。
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