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自分の顔に起こった怪現象を検討するのは後にして、鞄のポケットから例の花小刀を取りだした。 まさかこの刀の初使いが糸切り鋏になるとは思ってもみなかったが、仕方ない。 鞘を抜いた瞬間、明らかに目の前の女子が動揺を見せ、慌てだした。 こちらは刃物を持ってるのだし、変に動くほうが危険だというのに。 仕方なく、もう一度「深呼吸」と言ってみた。 するとまた、さっきと同じように大きく息を吸いこんで、吐き出している。 ……。 その真剣な表情に、また自分の頬がぴくっとおかしな動きをした。 自分で制御できない動きに、戸惑う。 これは……、 顔面神経痛か何かだろうか? とにかく今は時間がない。 小声で「切るしかなさそうだから」と一言ことわってボタンと制服の袖のギリギリあたりを狙って刀を扱う。 花小刀はかなり太い花木の枝も切るものだから、それほど力を入れなくても、縫い糸はあっさりと分断された。 「……あーっ」 ほぼ同時のタイミングであがる落胆の声を聞きながら、飾り板がボタンごと制服から離れ、薫風女子の鞄のもとへと滑り落ちていくのをぼんやり見つめていた。 結局、あの板には何が描かれていたんだろう。 蒔絵らしいそれの実態が最後まで判明しなかったのが、少し残念だった。
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