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目の前の女子は何かを言いたげだが、待っている時間はない。 おもむろに手を差し出し、「ボタン」と単刀直入に言った。 「あ」 ハッとしたように手をこちらに差し出しかけて、なぜか女子はボタンを持った手を握りしめてしまった。 まるで返さない、と言うかのように。 どうして拒むのだろう。 訝るより先に、答えは本人が口にした。 「すみません、ほんまに。せめてボタンつけさせ……!」 ああ、そういうことか。 女子の意図はわかった。 だからこそ、すぐに返事をした。 「いい」 そもそもこうなったことは、向こうが悪いわけでもない。 けれども、おそらくこっちのボタンの糸を切ったことを申し訳ないとでも思っているのだろう。 でも、勝手に相手が感じている申し訳なさに応えるのも面倒だ。 こちらは怒っているわけでも、不満でもないのだから。 むしろ今の状況をこれ以上長引かせたくない。 それなのに、さっきまで反応がやたら鈍かった女子が、やけに素早く返事をしてくる。 「あきません! 私、ソーイングセット持ってますから!」 ……。 今の状況をわかってるのか? つい、冷やかに言ってしまった。 「遅刻」 その言葉にハッとした顔をした。 やれやれ、ようやく現状がわかったらしい。 早く返してくれ、と思いながら、もう一度手を差し出そうとした。 すると、相手はさらに意外なことを言い出した。 「そしたら、放課後に! 今日は何時頃下校ですか?」 ……何だ、それ。 放課後に、もう一度会えというのか? ……面倒。
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