2

12/35
前へ
/85ページ
次へ
回していたぜんまいが切れそうになると同時に、その口も動きを止める人形。 そう思うと、また口元が笑いそうになる。 同時に、自分の中で身構えていたものが脱力していく。 とりあえずこの女子に関しては、さっきわきあがった懸念は杞憂だろう、と思った。 杞憂――そう出た結論に、妙に安堵した。 そしてあらためて女子の鞄のあたりに目を向けて、思い出した。 そうだ。 自分は、あの漆板に何が描かれているか知りたいと思ったのだった。 ボタンのことはともあれ、あの漆板はもう一度見てみたい気がする。 そのために放課後に出向くのは、ありかもしれない。 「じゃ、そういうことで」 一言そう言い置いて、すぐに踵を返した。 「へ!? ……あ、はい!!!」 背後に女子の慌てた声を聞きながら、ようやくどうしようもなくほころぶ口元を解放した。 なぜ可笑しいのかわからない。 自分の身に起こっている説明のつかない現象。 ――謎だ。 それなのに……不快じゃないのが、また謎だ。 女子と別れてからダッシュしたものの、やはりショートホームルームには間に合わなかった。 1時間目の授業が始まる寸前に教室にすべり込んだら、隣席の今西が声をかけてきた。 「森沢、きたんや。遅刻なんて珍しいな」 「……」 黙って机に鞄を置きながら授業の準備をしようとしたら、今度は後ろの席の谷口から声がかかった。 「森沢、今日、薫風の子に告られてた?」 ……みられてたのか。 「またか」 違うと否定するより先に、今西が反応した。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

137人が本棚に入れています
本棚に追加