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回していたぜんまいが切れそうになると同時に、その口も動きを止める人形。
そう思うと、また口元が笑いそうになる。
同時に、自分の中で身構えていたものが脱力していく。
とりあえずこの女子に関しては、さっきわきあがった懸念は杞憂だろう、と思った。
杞憂――そう出た結論に、妙に安堵した。
そしてあらためて女子の鞄のあたりに目を向けて、思い出した。
そうだ。
自分は、あの漆板に何が描かれているか知りたいと思ったのだった。
ボタンのことはともあれ、あの漆板はもう一度見てみたい気がする。
そのために放課後に出向くのは、ありかもしれない。
「じゃ、そういうことで」
一言そう言い置いて、すぐに踵を返した。
「へ!? ……あ、はい!!!」
背後に女子の慌てた声を聞きながら、ようやくどうしようもなくほころぶ口元を解放した。
なぜ可笑しいのかわからない。
自分の身に起こっている説明のつかない現象。
――謎だ。
それなのに……不快じゃないのが、また謎だ。
女子と別れてからダッシュしたものの、やはりショートホームルームには間に合わなかった。
1時間目の授業が始まる寸前に教室にすべり込んだら、隣席の今西が声をかけてきた。
「森沢、きたんや。遅刻なんて珍しいな」
「……」
黙って机に鞄を置きながら授業の準備をしようとしたら、今度は後ろの席の谷口から声がかかった。
「森沢、今日、薫風の子に告られてた?」
……みられてたのか。
「またか」
違うと否定するより先に、今西が反応した。
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