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「私ってさ、晴れ女な訳。だから今から晴れにしてみせるよ!」
晴れ女。行事的なイベントで雨を降らさない人の事でパワーストーンとか占いに並んで当てにならない、言うなれば話題の種みたいなものだけど、晴奈は威勢良くそんな事を言うのだった。
「いやいや、何言ってるの。できる訳ないでしょ」
「あーはいはい、皆さいしょはそう言うよねー。通過儀礼的な。まぁ、できるんで見ててよ」
言って、晴奈は持っていた傘を天に掲げると、上下に傘を動かした。ピストン運動を繰り返し、傘についた雨粒が私に降りかかってマジでウザかった。
それでも止める事はない晴奈。
ふざけてるならもうそこら辺で止してくれないかな、と言いかけたところで突如として晴奈が声を上げた。
「太陽モリモリぃぃ~~! 雲南無さ~ん!」
「へっ?」
もはや奇声だ。
女の子が出しちゃいけないくらい変な声を出している。そしてその掛け声も何だ。
私がドン引いているのなんて全く意に介せず晴奈は続けた。
「太陽サンサン! 雲散々! 雨降らさーん!」
馬鹿ばかしい、付き合ってられない。
「晴奈、もういいから。そんな事より早く帰ろう」
「太陽光陽皆高揚!」
あぁ! 漢字ばっかり読みづらい!
てゆうかさっきからその言葉のチョイスはなに!
語呂合わせに来てるところがムカつく!
「っ!」
いつまでこんな馬鹿げた茶番に付き合わないといけないんだと思っていた私だけど空に異変が起きていることに気づいた。
「空が、割れてる」
正確には曇天が真っ二つに割かれていた。雲の切れ間から光が差し込み、かすかに青空が覗く。
まさか。
「へぇぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!」
まるで大いなる者の声のような、人間の声を超越した重層かつ柔和な声を響かせ晴奈は天に傘を突き立てた。
その瞬間、手で煙を払うかの如く、見えざる手によって分厚い雲が容易く退けられた。
押し広げられた青い蒼い大空が目の前にはあった。
「ほらね、晴れ女でしょ?」
誇らしい晴奈の顔にはうっすら汗が滲んでいた。
「マジか」
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