序章 非凡で平凡な日々

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「はあ……」 今日も朝からひとしきり兄にいいようにからかわれた気がする。 ムカつくがあたしはかなり短気な方なので、最後まで冷静に兄をあしらう事が出来ないのだ。 1年掛かってようやく履き慣れてきたローファーで足早に見事な桜並木の道を進みながら、気を引き締める。 今のあたしには地面一杯のピンク色の絨毯も舞い散る桜の花びらも楽しむ余裕は無い。 毎朝無駄な努力と分かっていても足掻いてしまうのだ、快適な登校の為に。 「ーーーーいーーおーい……夕ー!聴こえてるんでしょー!?」 来た。 あたしはほとんど駆け足でピンクの道を突き進む。 「夕ったらー!」 ダメだ、声がどんどん近づいてくる。 あたしはとうとう全力疾走し始めた。 「あはは!追いかけっこー?」 無駄に爽やかなムカつく声はぐんぐん距離を縮め、あたしの頑張りもむなしく遂に並走されたので、あたしは諦めて歩調を緩めた。 そもそも脚の長さが違うんだから逃げ切れる訳なかったね。 「夕って何度も呼んでるのにー。追いかけっこなんてお茶目だなあ」 テメーと登校したくないから逃げてたんだっつーの!! ……失礼、口調が乱れた。 あたしの隣をニコニコと歩くのは、嫌味な程造作が整った男。 甘めの顔立ちに色素の薄い髪と瞳で、1人で歩いていてもモデルとかそっち方面でスカウトされてたり逆ナンされてたりで気の休まらなそうな奴だ。 あ、残念な事に幼馴染です。 「……あたしと登校したいなら1人でいてよね」 「あれ?夕ったらヤキモ「死にたい?」冗談だってー」 仮にもずっと一緒だった幼馴染だから、コイツ単体はそんなに嫌いではない。 いや、まあヘタレな所とかナヨっちい所とか短所はあげつらえば一杯あるけど、それくらいは誰だってある短所でしょ? じゃあ何がそんなに嫌かと言うと、まあすぐに分かるよ。
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