第21章 臨海学校、後半の部

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それほど喋った事もないけど、何だかいつもよりも無口な彼の横顔を眺めていたら、黒い瞳が寂しげに揺れていた。 「……隣、いい?」 「どうぞ」 隣のソファーに身を沈める。 おお、このソファーふっかふかだな。 「少し、長話に付き合ってくれるか」 「いいわよ」 大事な話のような気がしたので、人払いと防音の効果を付与した【無界】を張ると、デイヴィは小さな声で「助かる」と呟き、話し始めた。 「あるところにーーーー」 ーーーーあるところに、少年がいました。 大貴族の家系に生まれたその少年は、気味の悪い色の瞳と髪、そして属性を持っていなかったので、物心ついた時には牢の中で隠されて生きていました。 会いに来るのは妹だけ。唯一妹が少年の心の拠り所でした。 食事もろくに与えられず、世話係として同じく牢に入れられていた女からは日々暴行を受け、存在をほぼ忘れられた少年は。ある日、特別な力を目覚めさせました。 その力で少年はまず女を消し去り、それから牢を逃げ出しました。 逃げて、逃げて、逃げてーーーー少年はどこかの森に逃げ込みました。 魔物に怯えながら泥水を啜り、毒のある植物に当たってはのたうち回っていた少年はそれでも何とか生き延び、やがて人間を殺し、武器を手に入れました。 特別な力と武器で魔物を殺して回っていた少年は数年後にSSSランカーに拾われます。 世界をも壊せるその力を危惧したSSSランカーはしかし、少年を消す事はせずに、正しい力の使い方とコントロールを教えました。 名もない少年は、SSSランカーが殺した犯罪者から取った名を自分に与えました。 「……そして少年は、いや、俺は。イノリア学園に通って1年経って、心の拠り所だった妹と再会した。 ……でも妹は変わってしまっていた。 俺と同じクラスになる為に、わざと魔力を封じて魔盲を装っていた…!これは本物の魔盲に対するひどい侮辱だ。そもそも学年が違うから同じ教室にいられる訳でもないのに……恐らくリーガル家当主の差し金だろう。俺が利用価値があると見なされたんだ」 デイヴィはそう言って、自嘲気味に笑った。
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