第22章 邪神のお散歩

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「おっちゃん!その串焼き10本!」 「よしきた!嬢ちゃんよく食べるなぁ!」 「そっちの果物3つちょうだい!」 「はいよ!マンゴン3つ!」 「挟みパン!?う~んどの味にしよう……全部で!」 「おいおいお嬢ちゃん食べきれんのか?」 「あとは……」 「まだ食うのかよ」 「あは!夕の胃袋ってどうなってんだろうね!食べても食べてもお腹いっぱいにならないや!」 お陰で食べ歩きが捗るわけだが、本当にどうなっているんだろうか。 別にいくら食べても腹が空いて辛いとかそういう訳じゃないんだけど、腹一杯にはならない。 「……夕は食った余剰分をエネルギーにして溜め込んでる」 『そうなの?初耳よ?』 「そうなんだよ」 「ふーん」 夕と話す時だけ、この魔王の胡散臭い笑顔が柔らかいものに変化する。 ああやだやだ、惚れ込んでるねえ。 「惚れ込んでなきゃ使い魔契約なんかするわけないだろ」 「ごちそうさま、だよ」 ボクにはそんな人、いなかったから気持ちがよく分からない。 長年色んな世界を眺めていたけど、想いの一方通行で苦しむ人や愛が憎しみに変わる人、そんな人達が沢山の負の感情を抱え込んでいた。 誰かを想うって事の綺麗じゃない部分を一番よく知っているのはきっとボクだ。何しろダイレクトに生々しい感情が伝わってくるんだから。 もちろん、反対に、好かれなくてもただただ無償の愛を捧げる人や永遠の愛を誓って愛し合う人達もいた。 けれどもその感情をボクが受け取る事はなく、今ひとつピンとこない。 時折愛で満ちた人間に『可哀想』『この感情を知らないなんて可哀想』と言われるけれど、人が暖かいと感じる感情をボクは知らないんだから、知らないものを渇望したりはしないし、自分を可哀想なんて思ったりもしない。
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