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「ただし本人は本当は顔を見たくないと言っていました。それでも連れてきてほしいのですか?」
女性が傷付いた顔をする。
加害者はあんた達だろうに……。
「……それでも、連れてきてくれ」
「分かりました」
絞り出すような声に頷いて、席を立った。
サンダルがカツリと音を立てる。
臙脂色のワンピースが、三つ編みにした髪と一緒に生暖かい風に靡いた。
「お待たせしました」
「いや、大して待ってない」
校門前では、Yシャツにジーパンというシンプルな格好の全帝が、門に凭れてあたしを待っていた。
なぜ寮で待ち合わせずにわざわざ遠い校門前まで来たかというと、全帝のファンクラブに目をつけられない為だ。
寮だと沢山の生徒が行き交っていて、人目が気になる。
それに学校外への【転移】は一旦敷地から出てからでないといけないし。
全帝もあたしもやろうと思えば転移防止結界程度すり抜けられるが、後々面倒なのでやらない。
「……三つ編みも似合うな」
「何か言いました?」
「いや」
休日だからだろう、生徒のはしゃぐ声に掻き消されて全帝の言葉が聴こえなかった。
まあ大した事は言っていないだろう。
「行くか」
「そうですね。……そんな顔しないで。【転移】しますから掴まってください」
すでに渋い顔の全帝がちょっと心配になったが、全帝があたしの肩に手を置いたのを確認して【転移】を発動する。
ぐにゃりと景色が歪んで、次の瞬間にはのどかな、シルへ村から少し離れた場所にいた。
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