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「行きましょう」
「……ああ」
全帝の隣に立って歩き始めるが、無意識なのかその足取りは次第に重くなっていく。
あたしはふ、と息をついて、全帝の手を取った。
なよっちい朝日の手とは違い、ゴツゴツしていて男の人だなーって感じの手。
全帝は驚いたようにあたしを見た。
「引っ張ってあげます。何も考えずにあたしの後を着いてくればいいんです」
全帝の、複雑に揺れる赤い瞳があたしを映すと、ゆっくり細められる。
全帝はこちらを見たままふんわりと笑んだ。
「ありがとう」
「……いえ」
あたしは勢いよく顔を逸らした。
……何今の顔。
頬がじんわりと熱を持つ。
翔也のお陰でイケメン耐性はかなり高かったはずのこのあたしが見惚れた…?
うわ、何だろう、すっごい悔しい。負けた気分。
「どうしたアヤセ?」
「何でもないです、行きましょう」
全帝を引っ張ったままズンズン歩みを進める。
しかし悔しい事に、歩幅の差で全帝は余裕で着いてきている。畜生。
村に入ると、ちらほら行き交う村人とすれ違う。
そして誰もがギョッとしたように全帝を見るものだから、全帝は居心地悪そうだ。
「……俺の事などとうに忘れ去ってると思ってたんだが……」
「罪悪感があったんでしょう。5つの幼子を放り出すなんて普通じゃないですし」
しっかし村人の反応はいただけないな。
あんたらの領主が全帝との再会を望んだっていうのにその化け物見るような視線。
不快だ。
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