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今度は少年と会う事もなく、屋敷に着いた。
ひとまず全帝を外に待たせて来訪を知らせると、慌てて夫人が出て来る。
……前から思ってたんだけど、使用人とかいないのかな。下級でも貴族だろうに。
「《魔導》様!あの、依頼は……」
「連れて来ました。……イルトさん」
全帝は全くの無表情で、ゆったりと歩み寄ってくる。
え、何、怖っ!その顔怖いですよ!
「あ…ああ……」
いかにも“寄るな”オーラを出している全帝だが、夫人は口元に手を当てて涙を浮かべ、感極まった様子だ。
「……中に通していただけます?」
「はい……はい…!」
あ、ちょっと泣いてる。
全帝は…?
ああ…うんざりした顔を隠そうともしてない……。
こりゃ前途多難ですね。
「彼がイルト・ラジェルです。お探しの人物で間違いありませんでしょうか」
「間違いありません!我々の息子です!」
サンクさんも目を潤ませながらイルトを見る。
チラリと横目で全帝を見ると、能面のような真顔である。その顔からは感動は1ミクロンも感じ取れない。
「……イルト?」
ようやく全帝の様子に気付いた夫人が怪訝そうな声を掛ける。
「俺はあんた達の息子なんかじゃない」
「え…?」
夫妻は何を言われたのか分からないという様子で、ポカンと呆けた。
「捨てたくせに今更何の用だ?」
試合開始のゴングが鳴り響きました。
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