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高校3年の梅雨の晴れ間だった。
毎日、受験をひかえたこころのように、じとじととした日がつづいていた。
けれど、その日はめずらしく風が心地よかった。
「はっれたぁ。遊びいこう」
奈津子が、いきよいよく水たまりを飛びこす。
いつもお気楽で、でも、元気いっぱいの奈津子は、わたしの支えだった。
もう、この写真しか、残っていない。
あの田舎がきらいで、あのころの自分がきらいで、ただそれだけで、東京の大学に進学した。
あのころの自分に別れをつげたくて、田舎をでるとき、すべてのものを処分した。
でも、この写真だけは、どうしても捨てられなかった。
偶然、友人が撮影してくれた、この写真。
昨日、奈津子が入院したと、連絡があった。
そのとき、気づいた。
自分は大切な奈津子との思い出も、すてようとしていると。
もう一度、もどろう。
あの場所に。
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