第2章 月夜見の実力と追っ手

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「冷夏!祠には後どれぐらいで着く?」 慶兄の必死な声に振り返り、一瞥した。 向日葵を小脇に抱え、走る慶兄。 見た目だけなら、軽く幼女誘拐する変態イケメンにしか見えない。 だが、グレーの瞳はいつもより鋭く厳しい。 藤色の髪が激しく揺れ動いている。 辿った視線の先にあるのは僕の髪。 慶兄や向日葵、いや月夜見の誰とも同じでない…異端の色。 何でみんな髪ばっかり見るかな? いくら異端だからと言っても、髪色1つで此処まで面倒な事になるとか…本当意味不明。 全く…そんなに見つめても、何も出ないのに。 何なら背負ってるリュックの方に目を向ければいいじゃないか。 例えば、何か使えそうなものはないか?とかさ。 あとは腰に差した愛刀ぐらいしか、身につけてないけどな。 …ま、それどころじゃないか? 「…あと4、5分程度です。でも僕は祠に連れて行くだけ。出るなという命令がある限り。」 …そう。出るなという命が降っている以上はそれを破る事は出来ない。 それが長生きするための数少ない手段。 出た声は自分でも驚くほど低く冷たかった。 無駄な考えをしていたとは誰も思わないほどに…鋭く、はっきりとしている。 「…!そうか…なら当主に変わって命を下す。共に逃げろ、冷夏。」 命という名の枷が外された。 心配という安易な理由で。 だが、誰も本当の意味では心配する事は不可能だ。 「分かりました。おっと…これはどうやらのんびりしてられないですね。」 「追っ手か!」 無言で頷き、速度を上げる。 慶兄も遅れて、この速度に食らいつく。 ビュン! シュタッ! タタタタタタッ… かなりの数の足音と気配…それに冷たい視線。 敵は玄関と此方にでも別れてたのだろう。 でなければ、こんなすぐ追付ける筈がない。 それにこの速度について来るなんて… 加速(アクセル)などの系統の魔法に長けていなければ困難だ。 …チッ。 こうなったら、祠に相手より先につくしかない。 そう思考を巡らせる間に祠が見えた。 高さは2m?程で材質不明の黒い塊は一見すれば、ただの扉にしか見えないが、よく見れば祠という具合だった。 さて、これの何処に都合のいい抜け道がある? 「冷夏!あれが祠か?」 慶兄も認識したみたいだ。 2人ほぼ同時に祠の前で足を止め、慶兄は向日葵を下ろす。
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