4人が本棚に入れています
本棚に追加
「あれ? ないな」
雨の降りしきる農道で、エリカは傘を差しながら器用に鞄の中を探っている。
「どうしたの?」
「ないのよ、スマホが」
えぇ……。雨の中ここまで来たというのに、また学校まで取りに戻ろうというのか。コウは嫌そうな顔をした。
「じゃないと、あたしは明日まで誰とも連絡が取れないのよ。なによ、だったらあたしだけでも取りに戻るわ」
「あぁ、ごめんごめん。私も行くから」
エリカはすぐ拗ねるんだから。
そうして、道を戻ろうとして踵を返したら、
「わっ!?」
目の前に見慣れない女子が立っていた。肩までの髪の彼女は、黄色い傘を差してコウたちをジッと見ている。
「なに、あんた? 用でもあるの?」
エリカは気味悪そうに尋ねる。
「これ」
女子はエリカにスマホを手渡してきた。
「あっ、ありがと」
エリカがそう言うと、女子はすっと消えてしまった。
「やった、まさかこんなことがあるなんて!」
「え、え!?」
エリカは満足げにしているが、コウには理解できない。今のは、幽霊?
「田舎ではよくあることよ。今のは”落とし傘”っていう奴よ」
「落とし傘?」
「落とし物の傘に魂が移ったものらしくてね。落とし物とかを届けてくれるのよ」
「へ、へぇ」
コウは昨年、この田舎町に転校してきたばかりだった。まさかそんな、非日常的なことが、この町では茶飯事だったなんて。
「他にも駄菓子屋の”ダレカ”とか、願いを叶える”鏡の京子さん”とかがいるけど、どれも害はないし、むしろこんな、良いことがあったりするわ」
どれもまぁ、この町限定で、匆々町にはいないらしいけど。とエリカは続けた。
「とにかく、スマホも戻ってきたことだし、帰りましょ!」
エリカは傘を閉じると、コウにそう言った。いつの間にか雨は止み、そこには青空が広がっていた。
私にも、こんなことが起こる日が来るのだろうか。そう思いながら、コウはエリカに並んで家へと帰った。
最初のコメントを投稿しよう!