落とし物

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「あれ? ないな」  雨の降りしきる農道で、エリカは傘を差しながら器用に鞄の中を探っている。 「どうしたの?」 「ないのよ、スマホが」  えぇ……。雨の中ここまで来たというのに、また学校まで取りに戻ろうというのか。コウは嫌そうな顔をした。 「じゃないと、あたしは明日まで誰とも連絡が取れないのよ。なによ、だったらあたしだけでも取りに戻るわ」 「あぁ、ごめんごめん。私も行くから」  エリカはすぐ拗ねるんだから。  そうして、道を戻ろうとして踵を返したら、 「わっ!?」  目の前に見慣れない女子が立っていた。肩までの髪の彼女は、黄色い傘を差してコウたちをジッと見ている。 「なに、あんた? 用でもあるの?」  エリカは気味悪そうに尋ねる。 「これ」  女子はエリカにスマホを手渡してきた。 「あっ、ありがと」 エリカがそう言うと、女子はすっと消えてしまった。 「やった、まさかこんなことがあるなんて!」 「え、え!?」  エリカは満足げにしているが、コウには理解できない。今のは、幽霊? 「田舎ではよくあることよ。今のは”落とし傘”っていう奴よ」 「落とし傘?」 「落とし物の傘に魂が移ったものらしくてね。落とし物とかを届けてくれるのよ」 「へ、へぇ」  コウは昨年、この田舎町に転校してきたばかりだった。まさかそんな、非日常的なことが、この町では茶飯事だったなんて。 「他にも駄菓子屋の”ダレカ”とか、願いを叶える”鏡の京子さん”とかがいるけど、どれも害はないし、むしろこんな、良いことがあったりするわ」  どれもまぁ、この町限定で、匆々町にはいないらしいけど。とエリカは続けた。 「とにかく、スマホも戻ってきたことだし、帰りましょ!」  エリカは傘を閉じると、コウにそう言った。いつの間にか雨は止み、そこには青空が広がっていた。  私にも、こんなことが起こる日が来るのだろうか。そう思いながら、コウはエリカに並んで家へと帰った。
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