嘘……なんて、ない。

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大通りの交差点。ここを通らないと自宅であるアパートにつかない。 仕事に疲れて、空腹の私の頭の中は、そうだ今日はカレーうどんにしよう、とそれだけになっていた。 職場から帰宅する社会人たちが行き交う広い歩道を歩いていると、バッグの中でスマホが鳴った。きっとまたお母さんだ、仕事が終わる頃によく電話をかけてくる。 ほとんどためらいもしなければ、画面をよく見もしないで、人差し指でスライドし耳に押し当てた。 「もしもし?」 でも、耳に飛び込んできたのは、聞きなれて鬱陶しくなっていた母の声ではなくて。 『止まれ!』 若い、男の声だった。短く、確かに"止まれ"と聞こえたのをカレーうどんでいっぱいになっていた頭がちゃんと理解したのか、それともただ電話から聞こえてきたのが怒鳴りつけるような、緊迫した男の声だったからなのか自分でもわからなかったけど、私の足は止まった。 同時に、目の前を車が走り去っていく。 いつの間にか横断歩道に差し掛かっていたのだ。しかも赤信号の。 「……ぅ、あ……」 驚いて数歩後ずさり、後ろを通りかかったサラリーマンにぶつかった。
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