嘘……なんて、ない。

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チラッとこっちを見ただけのサラリーマンに小さく謝り、電話に耳を澄ます。 『無事か?』 「無事……ってどういう……」 電話口から深いため息が聞こえ、それがまるで耳に息が触れるかのようで、不思議とドキドキする。 『とりあえず、電話しながら歩くのは危ないから信号渡っちゃって』 誰かもわからない男の声に従って横断歩道へ踏み出したのは、ちょうど信号待ちをしていた人達がばらばらと進みだしたせいだった。ほとんど無意識といってもいいくらいだ。 広い交差点を渡り終わり、少し離れた店の前でまた電話に耳を澄ます。もしかして私の様子をどこかから見ているのかもと辺りを見回すけど、それらしい人影もないし、パッと見てわかるはずがない。 『突然ごめん。でも今日君は、本当はあのまま……死ぬはずだった』 少し暗くなる声に、私の心臓が跳ねる。何て言ったの、今。死ぬはずだった? 私が? 「う、嘘……」 『君は』 私の声を遮り、電話の男は言葉を繋げる。 『絶対に救われる。今、運命を変えたんだから』 その言葉は私が今、仕事や生活に対して抱いている不満を言い当てているのだろうか。
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