4人が本棚に入れています
本棚に追加
駅前のブティックのガラスのショーケース。
今年のトレンドのファッションでポーズをとるマネキンたち。そのうちのひとつが、携帯電話を耳に当てていた。
数年前に流行った衣服で、少しうつ向けた顔。そっと動く唇。
ためらいがちに上向けられた視線が、口を半開きにする私とぶつかった。
「嘘……でしょ……」
『驚かせてごめん。でも、未来の僕の魂が……いや、今は君のものだね。僕と同じ末路を辿るのは、どうしても見過ごせなかったんだ』
申し訳なさそうな沈んだ声で、目を伏せ額を片手で覆う。
今にも崩れ落ちてしまいそうな儚い姿を、ガラスのこちら側から、そのガラスに触れる事すらできない私は、スマホを握りしめ見ているしかできなかった。
額を覆っていた片手が、力なく垂れ下がったと思ったら、今度は柔らかな眼差しで私を見つめた。
『君を救えてよかった。どうか幸せになって』
心残りを消化したような、清々しさを滲ませた笑顔が、まばたきをした瞬間に全て凍りついた。
ショーケースの中には、携帯電話を持ったマネキンなど、いなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!