石橋花菜編 《引っ越し》

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「ハイ。あ、お向かいさん」 わざとさっき聞いた名前を出さずに 赤の他人を見せつけるかのように言葉にした。 「引っ越しは終わった? 来たばかりでまだ調理も無理だろ?」 あまり気にもしていないのか。 普通に会話を続けられたが 手に持っているお盆の上にかかった 白いクロスを大げさにはぎとると 「ハイ。俺からの差し入れ」 ほら、って私がいる場まで近づいて そのお盆に乗っているモノを見せてくれた。 「・・・・・・オムライス?」 昔ながらの薄焼き卵で覆われた楕円形。 ご丁寧にケチャップでハートでも模様を付けたのか。 残念なことに 上からラップをかけたからベチャッてなってて その残像すらない。 「スープか何か作ろうか?」 「あ、いえ大丈夫です。 これも・・・・」 躊躇するように視線をオムライスに向けると 「全然!遠慮しないでどうぞ」 ここで食べろと言う意味か。 イスを上げられたテーブルの上にそれを置き ご丁寧にイスまで下におろして行ってる。
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