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そんな不条理な世の中を鼻で笑い、わたしは目玉だけをスライドさせて机に置かれた木目柄のペン立てへ視線を移す。
暗い室内で、ぼんやりとシルエットのようになって見えるそのペン立てには、いつ買ったのかも覚えていない百均のカッターナイフが入っている。
のそりと身体を起こし立ち上がると、怠い足取りで机に近づきそっとカッターナイフを手に取った。
チキチキチキチキ……、とブリキの玩具みたいな音を鳴らして刃を露出させる。
それほど使い込んだ物でもないから汚れなどはほとんどなかったはずだけれど、この暗闇の中では刃の光沢も窺えない。
(……)
特に意味のない息を小さく鼻から漏らし、再びベッドに戻り腰掛けた。
右手に握るカッターのグリップが、体温でじんわりと温まってくるのを感じながら。
わたしは、刃先をそっと左手首に添えた。
ここで力を込め一気に押し引けば、わたしのちっぽけな赤い命の源泉が噴き出し、体内から急速なスピードで生きる時間を消し去っていくのだろう。
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