第1章

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 音楽室でのことはちょっとした噂になっていた。しかしそれは好意的とは言い難い。むしろ悪口だろう。いわく、眼鏡の連中が妙なことをやっていた。いきなり三平方の定理とか言い出した。結局何がしたいとか解らなかったなどなど。 「お前ら、馬鹿だな」  ストレートな評価を口にするのは、図書室の情報をくれた悠磨だ。 「なっ」  桜太は言い返そうと振り向いたが、背後にいた担任の睨みに負けて前を向いた。  今は終業式の真っ最中なのだ。蒸し暑い体育館の中で、全校生徒810人が整列して学園長の源内から夏休みの訓示を受けているのである。その訓示は始まって12分を経過し、そろそろ拷問の域に達していた。暑さで誰もが意識朦朧としていて話を聴いていない。意識がしっかりしている連中も、頭の中で色々と夏休みへの妄想が忙しくて源内の話を聴いていなかった。 「どうして三平方の定理を使い出すんだ?視線ならまず角度だろ?何度か測ったのか?」  反論できないことをいいことに、悠磨がちくちくと痛いところを突いてくる。たしかに角度を測らないと意味がない。しかし二点から頂点を割り出すということしか考えていなかったので完全に忘れていた。しかも最終的には頂点も意味がなく、三角形の斜辺の長さを求めただけである。 「でもまあ、さすがは変人の吹き溜まりと言われるだけのことはあるよな。発想がぶっ飛んでいる。誰も思いつかないことをやるよ。次は何をやる気だ?」  急に好意的な意見に変わり、桜太はそっと担任にばれないように後ろを見る。すると悠磨はにやにやと笑っていた。どうやらさっきの言葉は好意的でもなんでもなかったらしい。また何かやると踏んで楽しんでいるのだ。しかし自分でも世間的に普通といわれる方法をする自信がなくて言い返せない。 「図書室の謎を解く時はちゃんとやってくれよ。あと、有効な解決方法も頼む」  そんな悠磨はしっかり図書室の謎は解かせるつもりで、しかも解決方法まで要求してきた。
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