第1章

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 ちなみに優我が毎回のように遅刻して来るのもこの図書室のせいだ。この学校の図書室は学園長の方針で大きく作られており、北館の一階の大部分を占めている。蔵書数も高校の図書室とは思えない数があった。 「昼食。そうだ、我々も昼にしないと。わざわざ母上に頼み込んで作ってもらったのに」  桜太は早速弁当を鞄から取り出した。もう夏休み扱いでチャイムが鳴らないせいで昼に気づかなかったのだ。 「こんなに大人数で、しかも広々と食べれるなんて久々だな」  同じように弁当を取り出す芳樹の呟きは、亜塔にすれば原稿用紙750枚分になる不満の一部を表わしているのだろう。特に芳樹はカエルを携えているせいで除け者にされがちだ。カエル柄の可愛い弁当包みも効果なしというわけである。 「なんか、危機感の増す言葉だよな」  楓翔がこそっと横にいる迅に耳打ちする。 「そうだな。考えるとクラスでは浮いているんだ。このままでは寂しい昼食が待っているかもしれない」  そんな迅の弁当包みは幾何学模様だった。何だか似た者同士な感じがしてしまう。しかし二年生は五人いるので、クラスで誰とも同じにならない可能性は低かった。なぜなら理系クラスは9クラス中3クラスしかない。まだ完全に一人となってしまった芳樹よりましだろうとは思える。 「うげっ。揚げ物が単体になってる!」  そんな悲壮感を吹き飛ばしたのは桜太の叫びだった。頼み込んでまで作ってもらった弁当は、終業式を過ぎても弁当作りから解放されないと解った母の恨み満載だ。なんとご飯を押しのける形で巨大なスコッチエッグが二つ突っ込まれていたのだった。もちろん野菜はなしである。
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