第1章

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 弁当を食べてすぐ行動となる科学部ではない。ちょっとは自分の時間が欲しいのだ。 「なあ、変人の定義って何だと思う?」  巨大スコッチエッグのせいでブラックホールに取り組めない桜太は優我に質問する。極度の満腹感にこのまま揚げ物ばかりの弁当を食べていて大丈夫なのかと不安だった。今は標準体型とはいえ、いつ太るか解らない。しかし抗議は受け付けられないのが目に見えているし、最悪の場合自分で作れと言われるだろう。どうにも母も変人である気がしてならない。 「定義ねえ。国語辞典とかだと一般と変わった性質の人って書かれてるぞ」  優我はハイゼンベルクの本を片手に電子辞書を手早く引いた。 「俺たちの性質は変わっているのか」  聞いておいてなんだが、桜太はへこんだ。性質という言葉が何だか悲しい。そして母も変わった性質で間違いない。  その毎日息子が太る可能性を考慮せずに揚げ物を入れ続ける母は何と大学教授である。変人もひょっとして遺伝するのだろうか。だとしたら悲し過ぎる。よく考えると色々と変だ。  桜太の頭の中がカオスになっているところに迅が打撃を加える。 「あれだよ。何か一つことに熱中しているとずれてくるんだよ。あのテニスで熱い人も俺たちから見ると変に映るのと一緒だ」  そんな考証をする迅の手にはリーマン予想の本があった。彼の素数愛も凄まじい。 「テニスの人って誰だ?でもまあ、そうか」  桜太は思い浮かばない人物を放棄して周りを見る。ここにいる誰もが弁当を食べ終えた後には何かに熱中しているのである。その寸暇を惜しむ様を見れば、誰だって変だと思うだろう。  ちなみに芳樹はまたどこかでカエルを捕まえたらしく、小さな水槽を熱心に見つめている。その横で莉音がせっせと計算中であり、さらにその横の亜塔はピンポン玉やビー玉を並べていた。おそらく好きなものの代用品だ、丸いもので凌ごうというその発想が怖い。
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