序章

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『いつか花火を見に行こう』 あの頃彼女と、そんな口約束を交わした。結局叶えられなかったその約束が、この時期になると俺の頭に浮かぶ。 パッと咲いて、しゅんと散るあの大輪の花火のように。 頭の中でなら、二人はいつもそばにいて、あの約束の通りに花火を見上げることができるのに、でも今はもうそれは無理な願いだ。 『会いたい』 その言葉を彼女が口にすることが多くなっていることは気づいていた。でもあの頃の俺は、そんな彼女の想いが重くなっていたのかもしれない。 海岸を歩きながらどちらともなく手を繋いだ。その温もりが心地よかったはずなのに、俺はいつの間にかその手を離そうとしていた。 『健ちゃん、好きだよ』 『俺も好きだよ』 そう言いながら繋いでいた手を離したのは俺だった。 なんであの時の温もりを俺は大事にしなかったんだろう。もう一度君に会えたなら、今度こそ大事にできるのに… そんな風に考えてしまうのは俺のワガママなのかな…                     完
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