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このツズル、コミュ障で引き籠もりのこじらせ女子である。
加えて、本が唯一無二の友達だとのたまう痛い娘なのだ。
リアルで生ある友と呼べるのは、この僕くらいであろう。
そのツズルを誘い出すのに、カリスマ小説家であった冷泉の名を使った。
それだけで聖域と称する引き籠もり部屋──正確には本棚に占領された書庫──から、猫じゃらしに脊髄反応した仔猫のごとく駆けてきた。
「冷泉の遺品である希少本を横流しする代わりに、わたくしに何をさせるつもりですの」
「ツズルは冷泉が亡くなった経緯を知っているかい?」
「ネットで観た限りでは、自宅で亡くなっているのをお手伝いさんが見つけたとか」
「その通りだ。それに加えるなら、冷泉は本で死んだのさ」
「本で……死んだ……?」
ツズルが小首をかしげながら言葉をなぞった。
「冷泉はこの仕事部屋で亡くなった。それも内側からしか鍵の掛からない部屋で、鍵の閉まった状態で発見されたんだ。
しかも数千冊の本に埋もれて、冷泉は圧死したんだよ」
「嘘でしょ…それって密室殺人ですわ!?」
ツズルの瞳がいや増して煌めいた。
「いや残念ながら、冷泉が亡くなった時刻に地震が発生したことが判明した。
死因は吹き抜けの部屋に並んだ本棚が崩れた結果、崩れ落ちた本に巻きこまれて圧死したと処理されたよ」
「何ですの……詰まりませんわ」
「でも不審に思わないか? 冷泉の噂はツズルも知っているだろう」
「たしかに、変人として名を馳せていますわ」
ツズルがアヒル口で爪を噛んだ。
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