密室領域のテウルギー

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 ツズルの求めに応じるように、冷泉が死んだときに密室だった部屋の扉を開け放った。  部屋を埋め尽くすように無秩序で乱雑に、うずたかく本が山となってそこにあった。  その圧巻の光景を僕は眼を瞬いて、ツズルは涎を垂らしながら見上げた。 「今よりテウルギーを開始します」  ツズルが厳かな声で宣言すると、パンッと柏手のように強く手を叩いた。  響音が部屋の隅々まで走り、続いてツズルが高い周波数の声を放ちはじめる。  その凜とした音声に共鳴するように、本の山が徐々に鳴動し出した。  ツズルの持つ異能力──テウルギーとは召魂術のことである。  普通テウルギーとは、神業、秘術、白魔術、降神術を指すが、ツズルの持つ異能力はそれらとは一線を画すものなのだ。  いきなり本が宙に浮いたかと思うと、部屋のなかを水を得た魚のように駆け巡りはじめた。  それはいつ見ても圧巻の光景だった。  言之葉ツズルは、本に魂を吹きこむテウルギアなのである。 「汝らに問う。八月一日冷泉はいかにして死んだのか?」  半眼のツズルが訊いた。  やおら宙に浮いたままの本が開いた。  その頁に印刷された文字が一斉に移動しはじめる。 『我等はミた。』 『ジ殺した。』 『みずカら命ヲ絶った。』   『命にケリをつけタのだ。』  ツズルに魂を吹きこまれた幾千の本が訴えた。 「……冷泉は自殺したのか!?」  それで腑に落ちた。
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