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冷泉が亡くなった原因の地震だが、それほど大きくはなかったのに本棚が倒れたのが不思議だったのだ。
仕事部屋の鍵を内側から閉めたのも、誰にも邪魔されずに自殺するためだろう。
作家の自殺は珍しくない。
ヘミングウェイ、芥川龍之介、太宰治、川端康成、三島由紀夫、偉大な作家は自死を選ぶ呪いにでも掛かっているのだろうか。
「タヨルはそれで納得したのかしら?」
ツズルの刺さるような声で、ハッと我に返った。
「どういうことだい?」
「冷泉はどうやって高い位置にある本棚を倒したのかしら?」
「地震で本棚が簡単に倒れる仕掛けを……」
言い掛けて口をつぐんだ。
それはとても不合理な推理で、地震が来るまで待つという発想は愚かである。
警察の現場検証でも、紐や棒のような不審な物は見つからなかったという。
では冷泉はどうやって本棚を崩したのか?
「タヨル、ここに何かあります」
ツズルの声を耳にして、また思考の迷路から呼び戻された。
見るとツズルが、中2階の本棚の後ろに何かを見つけたようだ。
すわ本棚を崩した仕掛けかと思ったが──
「この子が、隠れるようにいたのです」
ツズルがそう言って、古く薄汚れた小冊子を持ってきた。
どうやら手書きの絵本らしく、小冊子の背に“夏目怜一”と拙い文字で書かれていた。
それは八月一日冷泉の本名である。
冷泉は小説家になる前に、どうやら絵本作家を夢見ていたようだ。
「どうか教えておくれ。なぜ君の御主人は死んだの?」
ツズルが再び問うと、その小冊子は震えるように文字を並べた。
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