密室領域のテウルギー

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『そうなん』  その文字の羅列を見て、僕たち二人は顔を見合わせた。 「遭難……か。たしかに本の雪崩に遭って圧死したから、遭難と言えなくもないが」  僕が口ずさむ言葉を聞きながら、ツズルがペラペラと絵本の頁をめくっている。 「タヨル、あなたは忘れていませんか? 絵本は左開きで横書きだということを」 「それって……」脳裡で言葉を反芻する。 「この絵本には『み』の文字がありません」 「つまり……」 「この子が訴えたいのは『みんなうそ』です」 「嘘…なのか…」  吐息のようにもらしながら、いまだに宙に浮く幾千の本に視線を向けた。  いや逆に、幾千の視線を感じたのだ。 「これは確証のない推理ですが、冷泉はわたくしと同様に異能力者だったのかもしれませんね」 「ツズルと同じテウルギアかッ!?」 「それも、この本たちから美しい文章を指揮して奏でるコンダクター(指揮者)のようですね」  その途端である。  パタパタパタッ──  宙に浮く本たちが白い頁を閉じて開いて、高らかに拍手をするように開閉しはじめた。  まるで正解した僕たちを讃えるように、幾千の白い拍手が止まなかった。 「つまり冷泉の小説は、テウルギーで得たものだと言うのかい!?」 「その答えの帰結は……横暴な指揮に反逆した本たちが、心無い主人である冷泉を殺したのです」  ツズルが怖い声で答えた。  殺人犯の前で宣告するのと同様に、それはとても危険な言葉である。  怖気で膝から力が抜けるのを我慢しながら、それでも凍りついた視線は幾千の本たちに向けたままだった。
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