旧 ホテル白崎 ~魔性~

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影狼の声に一華はゆっくりと顔をむける。 一華 「何か言った?…狗郎?」 狗郎 「!?」 何故俺!?そう思う狗郎の表情は無表情ではあるが焦りの色がみえる。 だが東堂は一華が自分から視線をそらしたところで隙がうまれたその瞬間を見逃さなかった。 …ズッ 体を引き摺るように一華から遠ざかろうと動きだす東堂。 東堂の視線の先には狗郎達がきた扉とは反対にある扉へとむいていた…だが。 一華 「浩三?」 急に一華に下の名を呼ばれた東堂の体はビクンッと揺れ、ゆっくりと振り向いた。 東堂 「ヒッ!?」 短く悲鳴をあげる東堂。 振り向いたそこには、動けば唇にふれられそうな程顔を近づけ目を大きく見開いた一華の顔があった。 一華 「何処へいくの?」 東堂 「ゴ、ゴメ…ゴメンナサイ」 ごめんなさい。最早東堂の心は愛刀の界王と同様に、完全に折られていた。 一華 「……ハァ」 一華は一つ溜め息をつくと影闇に手をかけた。 東堂 「!?や、やめ!?だずげ……」 バシュッ 一華 「発するなと言ったでしょ?」 崩れ落ちる東堂の体。 その体からは首が離れていた。 一華の刀、影闇は霊体だろうが物質だろうが関係なく斬る事ができる。 だが東堂の刀、界王は違った。 生前から使い死後も尚振り続けた界王は霊気を吸い続け、斬った感触すら伝わらない程の切れ味の霊刀となった。 だがその霊気は一華との戦いにより削がれ、霊刀からただの刀へと戻っていた。 それに気が付かずに東堂は刀を振るった。 斬られる刹那に一華が身体を肉体から影へと変化させたのに気が付かずに斬ったつもりでいた。 東堂の敗因は刀に頼りすぎたこと、そして一華を魔の存在だと認識できなかった事、この二つにほかならない。
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