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「ねぇ、旧校舎の噂知ってる?」
昼休み、購買で買ってきたパンをかじりながらぼんやりと窓の外を眺めていると、教室の一角で話をする女子の会話が聞こえてきた。
「知ってる!夜になると旧校舎で自殺した生徒の霊が歩き回るっていうヤツでしょ?」
否応なしに聞こえてくる会話に耳を傾けながら、天月依織(あまつき いおり)は1口残ったパンを口に放り込んだ。
さて、次の授業の準備をしなきゃ。
「ホントにいるのかな、幽霊なんて」
「ただの噂でしょ」
「じゃあさ、今夜試してみない?」
会話は膨らみ、いつの間にかみんなで肝試しをやろうというところまで発展していた。
せっかくなら大人数の方がいい、男子も誘おうと、彼女らは参加者の候補を上げていく。
「依織も行くでしょ?」
いつの間に移動したのか、会話の中心にいた綾川里美(あやかわ さとみ)が目の前に立っていた。
「うーん」
依織は考える振りをして視線を逸らした。
正直、あまり気乗りしない。
しかし、里美を含め、この話の中心にいる3人はクラスの核のような存在。
面倒事の嫌いな依織は、表向きの人懐こい笑みを浮かべて頷いた。
さすが依織、と彼女は満足げに元いた場所に戻る。
参加者がある程度集まって来た時、昼食を終えた男子が教室に戻ってきた。
「あ、晴瀬くん」
その声に、依織の全ての意識が持っていかれる。
志間晴瀬(しま はるせ)と依織は、実家が隣同士の幼馴染みだ。
同い年の割にしっかりしており、面倒見のいい兄気質の彼に、依織はこれまで幾度となく助けられてきた。
とても頼りになる存在だ。
「ねぇ、晴瀬くんも肝試し行かない?」
「肝試し?」
「うん。今夜、旧校舎にみんなで行こうって話してたの」
「へぇ。面白そうじゃん」
好感触の晴瀬に、女子達の表情が嬉しそうに緩む。
密かに耳を傾けながら、依織は心の中で安堵のため息をもらした。
気の進まない肝試しも、彼がいてくれるなら少しは気楽だ。
そんなことを考えているうちに予鈴が鳴り、今日の7時に旧校舎に集合、という約束を残して集まっていたクラスメートはそれぞれの席についた。
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