とあるマンガの最終回

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ブーブーブーと、また震えるスマホを横目に捉える、そんな彼から、本日20件目のメールだった。 いつも締め切りギリギリ入稿の僕だったが、今回特に話が進まず、パソコン画面の原稿は今だタイトルだけだった。 「ああもうまた催促うるさい、気が散って逆に話がまとまらない、アイデアが出ないのはアンタのせいだよ」 悪態を一つ吐いて、スマホを手に取り催促の内容を確認すると、僕は目を見張った。 「出口センセイ、申し訳ありませんが、作画の時間がどうしてもありません、故にセンセイのご自宅で直接原稿描かせてもらいますので、これからご訪問させて頂きます」 ええーっ! これは驚いた、何勝手に決めちゃってんの、僕の家に上がり込む、1LDKのこの部屋に!? 絶対ダメ、そう心で叫んだ、無理だからここにお客さんなんて、ここは僕の城、僕のユートピア、唯一安心できる僕限定の絶対空間なんだから。 「こ、断りのメールを入れよう」 そう言って慌ててスマホを操作した時だった、訪問者を知らせるチャイムが我が家に鳴り響いた。 ピンポーン、ピンポン、ピンポン、ピンポーン 「あれ~、留守なのかな~」 ドンッ、ドンッドンッドンッ! 「出口センセイっ居るんでしょっ、もう、面倒臭いんで勝手に入りますよっ」 ガチャ 「おじゃましま~、すっ、うっ、うわっ! なんじゃこりゃ~!」 勝手にドアを開けた上に玄関で騒いでいる傍若無人に我慢の限界を感じて、つい言葉を荒げてしまった。 「ひ、人ん家の玄関でなにを騒いでるんですかぁー!」 失敗した、居留守を決め込もうとしていた僕に、関わるなっ、と僕の心が警鐘を鳴らした。 押し入った無法者は身体をブルブルと震わせ、溜めたマグマを吹き出した。 「な、な、な、なんなんだこの、汚い部屋はーっ」 へ?なんの事だろうと、振り返り我が家を見渡す、所狭しとひけらかした、雑誌にゲームにDVD、マンガにフィギュアにお菓子にジュースの瓶、服にタオルにアニキャラクッション、萌系抱き枕、僕はやっと意味が分かった。 「き、き、き、汚いとはなんだ、これは全部僕の宝物だぞっ」
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