とあるマンガの最終回

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今まで当たり前のように素晴らしいアイデアや物語がポンポンと思いつく、ノリノリで楽しい毎日が続くと思っていた矢先、ふと、その先の話が思いつかない、あれ変だな、どうして何も出てこないんだろ、フル回転していた滑車も空回り、いや今や錆び付いた20年前の扇風機のようにピタリと止まった僕の脳みそ、それを即ち、スランプと言います」 解ってくれただろ、君もクリエーターなら、高林編集長にも聞かせたかったな。 「ふ、ふざけんなよ、なに訳分からない事言ってんだよ、それでもなんでも捻り出すのがプロだろう、根性出せよ、さもなきゃクビだよ、仕事無くなっちゃうんだよ、アンタのせいでオレまで無職、どう責任とってくれるんだよっ、しかもこんな埃だらけのゴミ屋敷に缶詰を強要されて、病気になっちまうよ」 あー、また僕のユートピアをバカにしたな。 「病気って、あ、アナタがひ弱なだけじゃないの、僕そもそも歯を磨かなくても虫歯0、健康優良児だったんだぞ」 谷向井さんは舌打ち一つして、嫌そうに顔を歪めた。 「うっ、汚い、吐き気がしてきた、もう、なんでも良いからとっとと書いてくれよ」 妙に腹が立った、僕の仕事は、流れ作業のように単純で簡単に出来やしないんだ、もっと崇高な行為なんだぞ。 「適当な話なんか書けるか、そんな事言うのなら、僕の家から出て行ってよ、出て行かないのなら、」 「あん?どうしてくれんの」 「僕が出て行くっ」 そうして、僕は僕の唯一の城を後にした。 多摩川の大きな水の流れをぼんやり眺めながらいつしか僕は、KTDと僕自身の存在価値を考えていた。 こんな大量の水でさえ、始まりはきっと細い小川なのだろう。 その小川には、いずれ大河となる資質の片鱗はあったのだろうか、多分無いな、少しつづ小さな水が集まって増えて、やがて大きな川となるのだ、個の力など最初から皆無だ。 「はぁ、僕が居なくても、KTDは続くんだ」 いや例え連載が終わったとしても、僕の関与しない話したいことがや、別の作品として勝手に続いていくのだろう。 「僕が死んだら、編集も谷向井さんも皆困るかな、悲しんでくれるかな」 美しく輝く水面の内側に新しい世界が待っている、そんな衝動を押さえきれずに、僕はメールをした。
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