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「谷向井~!」
怒りに駆り立てられ、僕は勢いよく玄関のドアを開けた。
えっ!?
いつもなら開けたと同時に迎えてくれる、フィギュア、雑誌、DVDコレクション、それとアニキャラクッション、でも部屋には宝物達の姿は無く、て言うか、やけに見晴らしの良い清潔な間取りが眼下に広がる。
「うわ、す、すいません、部屋を間違えました!?」
とっさに言葉にすると、部屋の奥から応えがきた。
「あ、お帰り、出口センセイ」
ええっ!?や、谷向井さん?、と言う事は、ここは僕の部屋!?
綺麗に整理整頓、キッチンの隅々、多分トイレまで清掃の行き届いたこの部屋を見渡す、ツルッツルの廊下を進みながら、引っ越した当初を思い出す。
「こ、これ、アナタが?」
テーブルの上で原稿を書き続ける谷向井さんは、手を止める事なく応えた。
「センセイ、ネームありがとうございました、驚きましたよ、あんな展開全く予想もしていなかったので、オレ、感動しました」
こちらを見やる事なく仕事に集中しているその表情は、原稿の完成を確信して、自信に満ちた微笑をしていた。
彼の原稿がくるくる回り、鉛筆の下書きの上に力強いインクの線が引かれると、美しい絵、いや、マンガが完成する。
「いや、あれはただの現実逃避、、、」
そうは言っても僕は今し方描かれた彼の原稿に釘付けで、その後の言葉を忘れる程だった、物語のヒロイン、魔ユミンちゃんの絵、それは戦いに敗れボロボロになった容姿と、顔を上げ、それでも闘いを止めない不変の眼差し、その決意までもが見事に描かれていた。
こうまで僕のイメージを画像化出来る人間は絶対彼しか居ないだろう、なにしろ絵を見て気付くのだから、僕は僕の表現したかった世界に。
「さあ、センセイ、続きを、この後の話を下さい」
「あ、はい」
書ける、今なら書ける、この話の続きが、この絵の後の展開が、まるで枯渇したダムに逆流するポロロッカのように!
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