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大正元年、初夏ーー。
「ーー……ゆぅみぃこオオオ!」
女の子の高い声が私を呼んでいる。
疾風怒濤のいきおいで
丘の上から飛び降りてくるのは
いつものふたりです。
上は着物下は白い細袴(ズボン)
それに薄桃色の
襟巻きをなびかせる
女の子顔負けの長髪の桃介と、
ひらひら揺れるオカッパ髪に
袴姿のまり子と。
私の名を呼ぶまり子の
分厚いメガネのレンズが
光を反射して眩しそうです。
私たちは私立伊部利須田学園
中等科に通う仲良し三人組み、
みんな同じ15歳です。
「聞いて聞いてむしろ聞きやがれ!
ついに我らが小太郎くんがっ!」
その桃介がぴょいんと跳ねる。
小さく細っこい体が子鹿のよう。
「なんと似合わぬ
生徒会役員に選出されたそうな!
これは最新の情報である!!」
ビシッと敬礼する立ち姿は
こんなときだけ
無意味に凛々しいですわ。
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