第1章

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「「「「この国は大和民族の国ではないのか――! 大陸出身者から仕事を取り上げ、大和民族である我々に仕事を分け与えろ――! 」」」」 迷彩服を着込んだ800人程の一団が、国会議事堂の前でシュプレヒコールを繰り返している。 「そうだ! そうだ! もっと言ってやれ――! 」 「頑張れ――! 」 迷彩服の一団が呼びかけたデモ行進に参加している、10万人程の失業者が、シュプレヒコールの声に声援を投げかけていた。 第二次世界大戦が終結して68年、占領軍から日本政府に全権が返還されてから28年。 占領軍が進駐している間はそれなりに景気が良かったが、占領軍が全面撤退した後、我が国の景気は後退して、失業率が40パーセントを超えている。 俺はこの一団に戦闘員として所属している、売れない小説家だ。 小説家が仕事だと言っても、今現在失業中で、どちらかと言うとこちらが本職になっている。 シュプレヒコールを先導していた大隊指揮官が、一段と声を張り上げた。 「軍歌!!歩兵の本領! 」 「万朶の桜か襟の色」 「「「「万朶の桜か襟の色」」」」 指揮官の歌声に続いて、全戦闘員と失業者の中で歌詞を知っている者が唱和する。 「花は吉野に嵐吹く」 「「「「花は吉野に嵐吹く」」」」 全戦闘員とデモに参加している失業者が、歌に合わせて足踏みを行う。 「大和男子と生まれなば」 「「「「大和男子と生まれなば」」」」 調和のとれた足踏みは、歌以上に四方に響き渡る。 「散兵戦の花と散れ」 「「「「散兵戦の花と散れ」」」」 その時だった。
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