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「嘘……でしょ……」
愛しの娘である恵美が俺の顔を見て驚愕している。対する俺は娘の顔を見て喜びに打ち震えている状態だ。
「お父さん……なの?」
「そうだよ恵美、お前に会いに来たんだ」
俺は3か月前に交通事故で亡くなった。愛する妻と、中学2年生の娘を残してだ……。別れすら言えなかった俺に、神様が会いに行く時間を少しだけくれた。俺は3時間だけ家に戻れることになったのだ。そしてさっそく娘に会えた。俺はいったい何を言えばいいのだろう? そして娘は俺に何を言ってくれるのだろう。
「恵美、少し大きくなったか?」
「え? うん……というかお父さん……なんで今日家にいるの?」
「は?」
よくわからない質問をされた。普通はここで、どうしてここに? とか聞くのではないだろうか。なんで今日家にいるのって……世の中のパパが娘に言われてショックな台詞ベスト10に入るあれじゃないか。
ここで俺の頭にひとつの考えが浮かんだ。もしかすると娘は、俺が死んだことを受け入れていないのかもしれない。突然すぎたので、俺がまだ生きていると思いこもうとしている……うん、よくある話な気がする。ここは俺の死をしっかりと伝え、その上で別れをあ言うべきだろう。
「恵美、よく聞きなさい。お父さんはね……」
「あのさ、そんなことよりお願いがあるの」
「え? なんだい?」
「3時間でいいからお出かけしてきて!」
どういうことだ? 俺がここにいられるのは3時間だけ。3時間も出かけたら俺は何もできずに帰ることになる。戸惑う俺の体を押して玄関まで連れていこうとする娘。頭は混乱しているが、ひさびさに娘とスキンシップをとれている気分で嬉しい。じゃない……早く説明せねば……。
「恵美、お父さんはね……」
「いいから早く! もー、なんでいつもお父さんはそうなのよ」
「えっと……」
話を聞いてくれそうにない? この恵美の慌てようはいったい何だろう? そりゃあ死んだはずの父親が目の前に現れたら慌てるだろうけど、これはそういった理由ではないらしい。そうしていると、ピンポーンと玄関のチャイム音が聞こえた。
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