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俺は近所の公園でブランコに揺られていた。気分はリストラされたサラリーマンだ。死者が戻ってきたら感動的なシーンになるのはドラマや映画の中だけのようだな。そりゃそうか、みんな俺がいない状態で予定を立てているんだもんな。急に現れても困るだけだよな。そろそろ神様と約束した時間だろうか……。手紙……読んでくれるといいな。
「あ、見つけたー! お母さん、こっちだよー」
その声に顔をあげると、公園の入口に娘が見えた。やがて妻の姿も現れる。もしや探しに来てくれたのか……。俺は立ち上がろうとして、異様な不安感に襲われた。映画で見たことあるぞ……感動の再会シーンで抱き会おうとした瞬間に時間切れで消えてしまうんだ。そうなるのが恐ろしくて、足がすくんでしまった。
「お父さんってばいい歳してブランコなんて乗っちゃってー」
「うふふっ、まるでリストラされたサラリーマンみたいね」
楽しそうに近づいてくる2人。ああ……先ほどとうって変わって俺の方を見て俺のことを話してくれている。なにか満足だ……うん、このまま消えてもいいや。俺はゆっくりと立ち上がり……やってきた妻を抱きしめた。その横から娘もぴとっとくっついてくる。よかった……触っても消えなかった。
「あなた、おかえりなさい……」
「お父さん、久しぶりだね」
「ああ……ただいま……」
「さあ、お家に戻りましょう」
妻と2人で娘の左右から手を握り家へと向かう。さっきは消えてもいいと思ったが、やはり嫌だ……。せめて家へ帰るまで消えないでほしい。
「なあ、今何時だ?」
「6時半くらいかしらね」
俺は6時には消えるはずだったのではないだろうか……。何故だろう? 俺が可哀想だったから神様が同情して延長してくれたのだろうか? そして無事に家へと到着した。
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