なんでお父さんが今日家にいるの?

6/10
前へ
/10ページ
次へ
 家に入ると、香ばしい匂いが漂っている。トマトのような香り……俺の大好きな匂いだ。そのまま食卓に連れて行かれると、美味しそうな料理が並んでいた。俺の大好物のハンバーグと、妻の手づくりトマトソースだ。 「これは……」 「うふふっ、あなたのために作ったのよ」 「お母さんこのためにはりきって買い物してきたらしいんだよー」  先ほどの買い物……あれは俺のための食材だったのか。ということは俺を家から追い出したのは、これを隠して作るため? でもいったいなんで前もって準備ができたんだ? 「なあお前……」 「お話は食べながらにしましょ。冷めちゃうわよ」 「そ、そうだな……」  3人で食卓につき、懐かしい妻の手料理を食べた。そしたたくさんの話をした。俺がいなくなった後大変だったけど、なんとか立ち直れたこと……。保険金のおかげで生活費は問題なく、娘を大学に行かせるための貯金も確保できていること……。俺が心残りだったことが次々と解消されていく。そんな幸せな気分の中食事は終わった。 「じゃあわたし部屋に戻るね。急いでやらなきゃいけないことがあるんだ」 「え? お父さんはもうすぐいなくなっちゃうぞ。もう少しだけだめか?」 「大丈夫だよー。それより今日は母さんと2人きりにしてあげるからさ。それじゃねー」  娘はそう言ってすぐに部屋へ行ってしまった。今日はというか、今日しかないのだが……もうお父さん離れが進んでいるのだろうか? まあいい……たくさん話もしたし手紙もポストに入れたままだ。娘が気を遣ってくれたのであれば、妻と2人きりの時を楽しもう。2人でソファーに腰掛け、時刻は夜の8時。いったいいつまでここにいることができるのだろうか?
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加