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「ねえあなた、どうしてそんな不安そうな顔をしているの?」
「ああすまない……俺はいつまでここにいられるのかと思ってね」
「そうね……白状しちゃおうかしら。私ね……神様にお願いしたの。いきなりいなくなったあなたと少しでもお話したい……そしてもう1度ごはんを作ってあげたいって。そうしたら夢の中で神様が応えてくれたの……。今日の6時から3時間だけ一緒にいさせてくれるって……」
妻が神様に願いを……そしてそれが叶えられた。俺と同じように妻も俺に会いたいと思ってくれていたのだ。それだけで嬉しく思う。
「でもびっくりしちゃった。だって神様が約束した6時より前にあなたがいるんだもの。神様が少しだけサービスしてくれたのかしら?」
ああ……これで謎が解けた。俺の願いと妻の願いを神様はそれぞれ叶えてくれたのだ。俺は昼の3時から6時……妻の願いには6時から9時。本当に素晴らしいサービスではないか。
「きっとそうだ。由紀……俺を呼んでくれてありがとう。会いたいと思っていてくれてありがとう」
「そんなの当然……あん……」
俺は横にいる妻を抱きしめた。先ほどの話だと俺は9時に消えてしまうのだろう。それまでの間……妻の体のぬくもりを感じていたい。そしてしっかりと別れをすませよう。
「なあ由紀……俺がいなくなった後、もし素敵な相手を見つけたら……俺に遠慮することなく結ばれてほしい」
「どうしたのあなた……そんな悲しいこと言わないで。私は当分あなたのことを忘れることはできないわ」
「ああごめん。もっとずっと後の話だよ。お前が幸せになれるのなら俺に気を遣わないでいいと言っておきたかったんだ。今のお前は当然俺だけのものだよ……」
「はい……あなた……」
妻はいつものように目を閉じ、俺はいつものようにキスをする。以前となんら変わらないキス。そして変わることのない幸福感が俺を包み込む。
「これでもう思い残すことはないよ」
「行かないでほしい……って言いたいけどそれはだめよね。だから最後に素敵な思い出がもらえて嬉しいわ。あなた……」
「ああ……このまま時間まで過ごそう」
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