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 エンリは時折、母親にレッスンの仕事と偽って出かけ夜の酒場でピアノを弾くことがあった。  母へ嘘をつく言葉とは裏腹に教師の仕事は夜には入らないので、小銭を稼ぐ目的もあったが、人々が集って飲んで騒いで、時には喧嘩が始まって…何より人間のあらゆる醜態の坩堝を眺めるのが面白かったのだ。  昼間レッスンで訪れる貴族や富豪の家の人々のように、すまして自分の内面を覆い隠すようなことは一切ない。…彼らだって、一皮剥けば同じようなものだろうが。
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