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いつものように流行の曲などを弾いていたエンリのそばに、一人の男が近づいてきた。赤ら顔で随分酒臭い。かなり酔っているだろう。
厄介なことが起こりそうだ…。エンリが眉を顰めたと同時に、男の手のひらが乱暴にピアノの鍵盤を押さえつけてエンリの演奏を妨害した。不快な和音が響き渡って客たちの何人かも振り返った。
「てめえ…アンナに手を出しやがっただろ」
そら来た。エンリは一切表情を崩さず、むしろ笑みまで浮かべて酔った男を見上げた。
「いいや、全く覚えはないよ」
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