5/7
前へ
/232ページ
次へ
 誰かが、雨に濡れた石畳を駆けていく足音が響く。  明かりもない真っ暗な夜更けの裏通りを窓から覗く者もなく、足音が過ぎ去った後はしとしとと降り続く雨の気配だけが残るのだった。  走り疲れた彼は半分よろめくように立ち止まった。  粗末な身なりのその男は、息もできないほど上がった動悸をおさめようと背を丸め両手を膝につく。
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加