復讐と、彼女の祈り

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 敵味方を問わず、生者死者も問わずに炎が焼いた。  護符を複数所持していたらしい大臣が、黒焦げになりながらも微かに息をしていた。 「複数を対象にした魔法なんて初めてだよ」  燦々たる状態の会場を見てトリュッケンが驚く。  魔法は一つの対象か、一定範囲しか選択できない。  サルディニアの系統では複数の魔法を組み合わせたり、連続で詠唱したりも出来なかった。それなのに。 「……た、助けて……」  生き残りの大臣が何とか命乞いをする。  シャルロットはゆっくりと彼に近付き、隣で片膝をつくと目を合わせた。 「聞こえんな、もっと大きな声で言うのだ」  緑の瞳には怒りが満ちている。 「……お、お願い……します……助けて……」 「だが断る! 良いか、他者の命を奪ってよいのは、自身の命を奪われても良い覚悟がある者だけだ!」  放っておいても死ぬだろうが、シャルロットは細身の剣を抜くと大臣の背に突き立てた。  すぐに死ねたのは或いは幸せだったかも知れない。  それでも止めをさしたのは、彼女もその手に感触を得たかったからだろうか。
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