◆・第三章・◆

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◆・第三章・◆

その年はいつもと違っていた 冬の途中から 一滴の雨も降らんかった 作物は育たず みんな枯れ 田畑の地は大きくヒビ割れ 春のうちから 天が熱の光をあてる あちこちが からからに渇き 草すら 育たず 干からびた 山の木は 青さを忘れ  今日もどこかで 人知れず倒れた 年老いた者が 倒れた 小さき幼子が 倒れた 達者に見えた者が 元気に見えた者が 次々に倒れた 皆が天を仰ぎ 渇いた大地を叩き 怒りと嘆きの声をあげた 渇いた涙を流し 雨を乞う 怒りと嘆きの声をあげた 底が剥き出しになった川を見つめ 黒光りさせ泳いでいた魚を思い 神や仏はいないのか……と 渇いた喉を震わせる オラはそれでも  渇いた井戸より水をくみ上げ 雨を待った 蓄えてあった  僅かばかりの食べ物と 井戸よりくみ上げた水を せっせと あいつの家族へ運び 青々とした天を仰ぐ あいつのおっ母は 自分の分を子に与え あっという間に痩せ細り いつしか 起き上がれなくなっていた それでも口には出さないが  時々戸口を見つめては 帰らぬ息子に思いを馳せている    目に見えて弱り  骨と皮だけの姿になっても あいつのおっ母は あいつの名を呼ばず 黙って戸口を見つめていた あいつのおっ母の火は 今にも消えそうで いてもたってもおれなくなった オラが 兄ちゃんを探してくる なけなしの食べ物を残し オラは 妹たちに後を託し 闇夜を飛び出し 駆け出した
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