「事実」

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…私には、秘密がある。 私はひそかに会社の研究室を使って実験をくり返していた。 私は微生物の研究をしていた。平たく言えばウイルスだ。 そうして、奇しくも数年前に私は新種のウイルスを発見していた。 それは地面に生息する微生物群集を調べているときに偶然発見したものだった。罹患すると速やかに生物のDNAを書き換え、タンパク質を鉱物へと置き換える。やがて鉱物化した生物は傷つきもせず病気にもかからない体となり生きていく…。 私は、それを新たなる人類への進化と考えていた。 それによって人類は繁栄していくのだと考えていた。 だが、この機械の男性の話を聞き、それは絶望へと変わった。 人類はとうに衰退していたのだ。 私と、もう亡くなったおじいさんしかいなかったのだ…。 数時間前なら、この意味も違っていたのだろう。 しかし、もう遅い。 私は今まで隠していた左の人差し指を見つめた。 その指には傷が走っていた。 細い、横に走る浅い傷。しかしその内側は銀色で…。 …彼らはどう思うのだろう。私がもうすぐ彼らの信じる「人」ではなくなるというこの事実を…。 私は透視眼鏡を外すと窓を見た。 そこには自分の顔が映っている。 そのとき、私の瞳から一筋の涙が流れ落ちた。 …その涙はガラス越しでも分かるほど水銀に似た色へと変化していた…。
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