「事実」

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「嘘…でしょ…」 私は信じられない気持ちでグラスの向こうの世界を眺めた。 そこには、平凡な窓の向こうの風景があった。 人々が行き交い、交差点を通り、電話をし、楽しそうに会話をする。 しかし、この透視眼鏡をかけることでその世界は一変した。 彼らの体は機械で埋まっていた。 皮膚に似せたファイバー素材で全身を覆い、関節はモーター仕掛けで、頭部にはいくつものケーブルが走る。 そんな人物が、何十、いや何百人と、この街を行き交っている。 「残念ながら、これは事実です。」 私の隣にたたずむ男はそう言った。 だが、グラスを掛けた目に映るその男性も明らかな機械の体だった。 そうして、その機械の男性はモーター仕掛けの口を開ける。 「あなたの…おじいさまの遺言です。彼は、この地球上に存在するたった二人だけの人類のうちの一人でした。そして、最後の人類であるあなたが寂しがらないように…幸せな人生を送れるように、我々ヒューマノイドタイプのロボットによる楽園を作ったのです。」 自然災害、環境悪化による人口減少、致死性の高い疫病の蔓延…機械の男性はたんたんと人類減少の原因である歴史を語っていった。 「この場所は地下の中に作られた人工的な都市です。あなたには、他の都市や自然とふれあった記憶があると思いますが残念ながらそれは一時的に植え付けられた記憶にすぎません。それは、目の前の光景を見ればわかるでしょう。」   確かに、それはグラス越しに見れば一目瞭然だった。 空は人工的なタイルが張られ、擬似的な光景が広がっている。それはドーム状に広がっていて、よく目を凝らせばその空間は数キロ程度の広さしかないことがわかった。 私は無意識のうちに、震える人差し指を握っている自分に気がついた。 「信じられないかもしれません。…ですが、この世界を拒絶しないでください。我々にはもう仕えるべき人間はあなたしかいないのです。」 そのとき、街を歩く人間や車が誰に言われたでもなくふいに動きをとめた。 そうして、私のほうへと顔を向ける。 その顔はどれも心配そうで、不安に満ちあふれていた。
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