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「私、部長のことが好きです!」
一点の曇りもない笑顔で言われて、上司冥利に尽きるなぁなどと考えていた。
隣の席にいる女性は大石明日香。
今年の春入社してきた新入社員だ。
今は新入社員歓迎会という名の飲み会の席で、いつの間にか隣に座っていた大石君に酒を注がれながら突然上記のことを言われた。
「はは、そうかいそうかい」
注がれた酒を一口飲んでにこやかに受け流す。
「本当に、好きなんです! お付き合いしたいんです!」
必要以上に僕の傍に来て大石君が言う。
「えっ、大石君と僕、いくつ離れてるか知ってる?」
「大体わかりますけど、そんなの関係ないです! 赤坂部長が本当に好きなんです!」
思わず周囲を見渡した。
参加している社員たちみんな、思い思いの人達とにぎやかに談笑をしていて、僕と大石君が話していることには特に気が付いてないようだった。
「大体って、今年五十になりますよ?」
「わぁ! おめでとうございます」
「いや、誕生日はまだ先だけどね」
大石君が入社して一か月。
ミスは少し多いが、すこぶる明るく社内外含めとても評判の良い社員だ。
見た目の華やかさ、愛くるしさ、何よりコミュニケーション能力がズバ抜けていて、人事もそこが気に入って採用したのであろう。
しかし、それがこんな不思議ちゃんだったとは思いもよらなかった……。
「君、結構飲みました?」
「全然飲んでないです! 酔ってないですよ!」
素面でコレなの? と本気で頭を抱えそうになったところ、向かいから部下の梶川君が声をかけてくる。
「部長、大石さんに気に入られてるんですねー! いいなぁ~」
「え? あ、そうみたいだね、はは」
「大石さん、飲み物、次何頼む?」
梶川君は二十代後半、独身。大石君のことを狙っているようだ。
梶川君も明るく気立ての良い性格だし、話しかけられて大石君も明るく応答しているし、将来的にはこのあたりが無難にくっついたりするのだろう。
さっきの大石君の告白?は、やはり、上司を持ち上げるためのおべんちゃら、といったところか。
少し間違ったやり方だとは思うけど。
梶川君がこちらに話を振ったのをきっかけに、大石君のさっきの告白が夢だったかのように、元の賑やかな飲みの場に戻っていった。
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