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その日は結局その後大石君と話をすることも目を合わすこともなく、飲み会が終了し、帰路についた。
僕は一人きりのマンションに帰り、一息つくと、離婚した元奥さんに久しぶりにメールを送ってみた。
『元気ですか? こちらは相変わらずです』
数分して返事が返ってくる。
『元気です』
いつも通りのそっけない一文を確認して、寝支度をしながら今日の出来事を反芻しているうち、いつの間にかどろどろと眠りに落ちていた。
翌日、会社に着いて席につこうとすると大石君が席までやってきた。
「部長! おはようございます!」
「おはよう」
「昨日のこと、覚えてますか?」
「飲み会のこと?」
大石君はサッと僕に顔を寄せて小さい声で言う。
「はい、好きって言ったことです」
思わずまた辺りを見回してしまった。
今出社している社員達みんな、こちらを気にしている様子はない。
「覚えてるけど」
「あれ、本気ですからね?」
「そ、そうか……え? で?」
「とりあえず、今日のランチ一緒に行きましょう!」
ら、らんちって、昼飯か。
ふと卓上カレンダーの今日の日付が目に入った。
5月24日。ははぁ、給料日前であまりお金がないからおごれってことか。
金ヅルとしてひっつくつもりなのかもしれんなぁ。
「わかったわかった。じゃあお昼ね」
「はーい!」
大石君はパッと笑顔を浮かべて踵を返して自分の席に戻っていった。
甘え上手な末っ子気質ってことろか。
昼。
各々が昼休憩に入る中、大石君がやってきた。
「部長! 行きましょうか!」
「はいはい」
書きかけの書類を端に寄せ、財布を持って立ち上がる。
外に出たら他の社員が待っていて『ごちになりまーす』なんて言うかもしれんな。
「うどん屋にでも行く?」
エレベーターに乗りながらそんな声を掛ける。
「いえ! お弁当持ってきたんで公園に行きましょう!」
「はい?」
お弁当???
エレベーターから降りて外に出ると、大石君がトトトっと小走りに歩いていく。
そのまま後をついていくと、会社のすぐそばの公園にたどり着いた。
「あそこ空いてます! 行きましょう!」
え? お弁当ってどんな?
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