6人が本棚に入れています
本棚に追加
「あー、大丈夫ですか?」
大石君はさっとハンカチを出してこぼれた味噌汁を拭いてくれる。
「以前会った時に、少しお話もしたんですけど。部長がバツイチで独身だって言ってて……この人だー!って思ったんです」
「え? そんなこと話した?」
「もー、やっぱり覚えてないんですね」
「覚えてない……」
「まぁ、それはいいんです。とにかく、私の気持ちが本当だってわかってくれれば今日はそれでいいです」
大石君はハンカチをしまって落ち着いてお弁当を食べ始める。
「そのうえで、私とのこと、考えてもらっていいですか?」
「え、いや……」
「あ、あと、お弁当! これからまた作って持ってきてもいいですか?」
「いやいや、それは周りがどう思うか」
「あっ、それなら大丈夫です! 私が部長のこと好きなのはみんな知ってますから!」
「え!?」
「部署のみんなには言いまくってて、昨日の飲み会の時に告白するーって言ったらみんな応援してくれたんですよ!」
開いた口がふさがらなかった。
「でも梶川さんに邪魔されちゃいましたけどね! 梶川さんは私が部長のこと好きなのあんまり信じてなかったみたいで」
そのあとは、大石君の言葉も半分耳に入らず、お弁当も口に入らず、いつの間にか昼休みが終わっていた。
結局、弁当は月一くらいでいいよと言ったのだが
『週一で持ってきます! そうだ! 月曜日をお弁当の日にしましょう!』
なんて言われて流されるままになってしまった。
それで社内に戻ったら、社員達からやたらと含みを持った笑顔で見られたし、本当にみんな知っていて応援しているのか。
一体どうなっているんだ。
それから毎日、大石君の好き好きアピールが続いているが、やんわりと交わしている。
大石君のことは嫌いではないが、やはり僕にとっては只の会社の新入社員の部下であり、親戚の子どものようにしか見えないのである。
いくら打っても響かない状況であれば、大石君もそのうちあきらめるだろう。
最初のコメントを投稿しよう!