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7月。
部署内恒例のビアガーデンに行く飲み会が開催される月がきた。
相変わらず月曜の大石君とのお昼は続いているが、たわいもない話をするだけで、特に進展もない。
そんな折り、部署内が何やら騒がしくなっていた。
塩田課長がキリキリとお小言を言っている。
よく見るとミスしたのは大石君のようだ。
塩田課長が僕のところにやってくる。
「部長! この書類、期日が打ち間違ってまして」
「どれどれ」
簡単なミスだが、このままだと社員への給料が未払いになってしまう。
「ああ。上には僕から言っておくよ。銀行には塩田君よろしく」
「はい。今から行ってきます! ほら、大石君も行くよ!」
落ち込んだ様子の大石君を連れて塩田君がツカツカと歩き去っていく。
少し社内への電話をして、原因となった書類をチェックしていく。
すると、ある書類に目が留まった。
今日は月曜日だ。僕はお昼を待った。
問題は片付いて(給料の振り込みが少し遅れるけど……)、お昼になった。
お弁当の手提げを持った大石君がしおらしく待っているので、何も言わず一緒に外に出た。
お弁当を食べながら口を開く。
「午前のあのミスさあ、大石君がやったんじゃないでしょ?」
「え?」
「宮部君の字が書いてあったよ? 書類に」
宮部というのは、大石君と同期の女性社員だ。
「あ、そう、でしたかね」
しばし流れる沈黙。さすがの大石君もこういうのは明るく吹っ切れないのか。
一緒の部署にいて、上から見ていると大体の人間関係が把握できてしまう。
宮部君と大石君の関係性はあまり良くなくて、宮部君がイチイチ大石君に突っかかって、嫌味を言ったりしているのを見かける。
宮部君というのは少し気位が高く、とっつきにくいタイプで、大石君は逆に柔和で社交的だから、単純にうらやましいのか。
「君は宮部君のミスを被って、借りでも作りたかったの?」
「いえ! そんなつもりは」
「じゃあミスを被っていい人気取り?」
「え……」
これは、この子を突き放すいい機会かもしれないな。
こんな初老入ったおじさんにいつまでも構っているのは時間の無駄だ。
「君のしたことは宮部君のためにならないからね」
僕は、大石君は明るく『気を付けます!』とか、少し膨れっ面して『はぁい』なんて言うのを想像していた。
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