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夜になっても、街はにぎわいと明るさを失わかった。
城の近くにある酒場では、アディたち兵士が、酒を飲み交わしていた。
「しかしアディ、お前が王女様の護衛を担当するなんて、思ってもみなかったぜ。」
「責任重大だぞ。もし王女様の身に何かあったら、王様がただじゃおかないからな。」
仲間たちがはやし立てる横で、アディは1人、酒を飲んでいた。護衛に任命されても、晴れがましおすえ気分にはなれなかった。
ーおれは所詮、家のあやつり人形さ。
兵士をしている理由が、わからなくなってしまったのだ。
アディは7歳の時に、軍隊の総司令官の家の養子になった。
彼の家は、祖父、父、兄と続く軍人の一家なのだが、総司令官と結託して軍事力と名誉を上げるために養子に出されたのだ。
周りの期待を一身に背負い、軍隊学校では常にトップクラスの常連だった。だが、ある日、霧が晴れたように気がついたのだ。
自分はただ、大人の言いなりになっているだけだと。
「シャルロット王女様は、どう思っているのだろう。」
ふと、シャルロットの顔が浮かんだ。彼女も、
「国のために」という名目で、政略結婚を控えている。大人の都合で振り回される、まだ15歳の彼女が気がかりだった。
「どうした?そんなショボくれた顔をして。」
「ほら、もっと飲めよ!」仲間がアディのグラスに、ワインをどぼとぼと注ぐ。
「アディの未来に、乾杯!」
カチャンと、グラスの音が鳴り響く。
アディは、ワインのグラスを口へ運ぶ。味は全くわからない。シャルロットの可憐な姿が、脳内の半分を占めていた。
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